• 2023/9/29
  • 『幸せすぎるおんなたち』
     日本海に面した人口七十八万人のX県は、女性就業率ランキング第一位、女性の働きやすさランキング第一位、育児環境ランキング第一位。日本一の子育て県に貢献することこそ、住民の誇りと幸せ。夫の転勤や結婚などでX県に移住してきた者にとって、地方社会独特の“掟”は恐怖そのものだった……。ぎゃー。これは本当に怖い作品。殺人が起きるわけではないし、物の怪が出るわけでもない。でも田舎の因習性、同調圧力、隣人が押しつけてくる「ご厚意」を嫌と言うほど体験できる、超オソロシ連作短篇です。やっぱり一番怖いのは人間。ゾンビや吸血鬼なんて可愛いものですよねぇ。汗

    『青の時間』
     世界トップクラスの実力と評価を得ている天才マジシャン「ブルー」。いつもサングラスで素顔を隠し、経歴は一切不明とされる彼の正体は。そして彼が最後に見せた大仕掛けのマジックとは……。少しだけネタバレすると、ブルーの正体は主人公の小学校時代の幼なじみでして、その頃の体験が現在の彼を形作っていた。そして二人が再会することにより、ブルーの心が大きく揺らぐ。しかしそれは精神不安なのか安定なのか……。ブルーという孤独な男が自分を取り戻していくストーリーなのですね。謎めいた天才マジシャンの正体が明らかになってから、クライマックスへ徐々に緊張が高まっていく過程が見事で、かなり長い物語にもかかわらずページを繰る手が止まりません。傑作です。オススメ!

    『湖底』
     ダムの底に沈んだ過疎化した村。日照りが続いて小中学校の校舎が現れた時、故郷に居残っていた一人が同窓会を企画します。東京など各地に散らばっていたなつかしの面々と連絡を取り合い、再会を期しますが、そこでふと気がつきます。自分たちは本当に仲が良かったのだろうか、と。子供時代の残酷な思い出が次々とよみがえり、気まずい雰囲気が漂う6名の男女……。でもそうですよね、幼い子供が全員いい子で仲良しこよしなわけがない。ホラー風味なファンタジー長篇小説です。

    『十四歳漂流』
     十四歳というビミョーな年齢の思春期。子供でありながら大人の事情、たとえば社会・経済、さらには性的な営みについても察することの出来る少年たち、その葛藤を描いたファンタジー短篇集。ハッピーエンドよりも、ちょっとだけもの悲しい結末が多いです。

    『ストックホルムの鬼』
     ストックホルム症候群という言葉がありまして、これの意味は「誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象」のこと。本作では、ある日突然拉致されて、気がついた時には完全に整えられた住環境に囲われていた、というビックリな展開。その施設では主人公と同じく連れてこられて隔離生活している人々がいて……。最初は憤り、脱出してやると息巻く主人公ですが、徐々に首謀者たちの目的、その正体が気になっていきます。

    『哀しき玩具』
     竹とんぼや凧揚げ、糸電話など昭和のオモチャを題材にした短篇集。物語の舞台も、昭和の高度経済成長期前を設定しているものが多く、古き良き時代が味わえるのが本作の特徴。『十四歳漂流』と同じく、思春期の少年少女が大人たちをどう見ているのか、その鋭い観察眼にドキリとさせられます。

    『枕時計の女』
     男女の恋愛を軸に、摩訶不思議な出来事を描いたファンタジー短篇集。昔、人気のあった「世にも奇妙な物語」のような世界観をイメージしてもらうとわかりやすいかも。恋愛小説でありながらSF、ファンタジーの要素もあって、意外性のあるオチで締めくくる。読了後は爽やかな作品集となっております。

    『12の星の物語』
     既刊『十二支の童話』の姉妹版ともいえる作品。あちらが「干支」の12話だったのに対して、今回は「星座」の12話です。大人向けのお伽噺ともいえる、ほのぼのした中にも時折どぎつい皮肉が込められたユーモア・ファンタジー短篇集です。

新刊案内

幸せすぎるおんなたち

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NEW『幸せすぎるおんなたち』

雀野日名子・著

古い田舎体質、因習性は人間の心の底まで侵食してゆく

 日本海に面した人口七十八万人のX県は、女性就業率ランキング第一位、女性の働きやすさランキング第一位、育児環境ランキング第一位。しかし、誇らしげに語る「X県しあわせ創造課」担当者の言葉には裏があったのだ。日本一の子育て県に貢献することこそ、住民の誇りと幸せ。夫の転勤や結婚などでX県に移住してきた者にとって、地方社会独特の“掟”は恐怖そのものだった……。連作短篇サイコスリラー。電子版あとがきを追加収録。

●雀野日名子(すずめのひなこ)
石川県で生まれ、福井県と大阪府で育つ。ゴーストライターやノベライズライターから物語執筆へと移行し、『機械仕掛けのアン・シャーリー』でジャイブ小説大賞入選。『あちん』で「幽」怪談文学賞短編部門大賞を受賞し、同作で小説家デビュー。『トンコ』で日本ホラー小説大賞短編賞受賞。「雀野日名子」名義での単著に、『太陽おばば』『幸せすぎるおんなたち』『終末の鳥人間』『かぐや姫、物語を書きかえろ!』などがある。カルト映画と80sをこよなく愛する、文壇アレルギー症。

青の時間

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NEW『青の時間』

薄井ゆうじ・著

孤高の世界トップ・マジシャンが最後に仕掛けたマジックとは

 以前勤めていた広告代理店から依頼された大仕事、それは世界的マジシャン「ブルー」を日本に招聘することだった。生い立ちも正確な年齢も、すべてが謎に包まれた存在。世界中の誰もが知っている人物なのに、ステージ以外での彼の素顔を見た者はいない。なんとか彼との接触に成功した僕だったが、少し高音の混じったその声は、どこかで聞いたことのあるように思えた……。長篇小説。

●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い

湖底

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NEW『湖底』

薄井ゆうじ・著

日照りつづきの異常気象でダムの水が干上がり、打ち棄てられたはずの木造校舎が現れた

 あのかたちを忘れはしない。校舎の時計塔の上に取り付けられて、風が来る方向を毎日眺めていた、あの風見鶏だ。学校が帰ってきた。二十年前、ダムの底に沈んだはずのあの学校が……。ダッチン、デミ、嶋本、テンドン、ナルカン、そしてトミー。これが当時、遠原村の小中学校をあわせた全校生徒だった。村役場の観光課職員として一人故郷に残っていたナルカンこと成島は、懐かしい顔に会うために同窓会合宿を計画した。しかし思い出は常に美化される。六人の子供たちは、本当に仲が良かっただろうか。思いだそうとするが、まったくわからなかった。遠い昔のことだ、親友も敵も、ごっちゃになって記憶の底に泥のように沈んでいた……。
 過疎化した村の廃学校で語られる、少年少女たちの“忘れられた約束”とは。ホラー・ファンタジー長篇。

●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。

十四歳漂流

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NEW『十四歳漂流』

薄井ゆうじ・著

悲しみに耐えて成長していく少年の心のふるえを鮮やかに伝える寓話集

 少年は工場のほうへ歩いていった。もうあたりは真っ暗になって、ところどころに立っている水銀灯の明かりが、工場と空き地を照らしている。闇のなかに、キリンの巨大なシルエットが見えた。少年は立ち止まった。キリンが気がついて近寄ってきた。ゆらゆらと、大きなシルエットが揺れながら近づいてくる。だめだ。近寄って来ちゃいけない。犬だって猫の子だって、見かけたらすぐに、そこを離れなきゃいけないんだ。近寄ったり触ったりすれば、絶対に離れられなくなる。(「飼育する少年」より)
 思春期の少年たちを待ち受ける深い淵、邪悪な穴、試練の丘とは。独特の世界観に彩られた短篇小説集。

*飼育する少年
*夜の遮断機
*首市場
*地下室の声
*メメリン広場
*僕の細道
*月夜の少年兵
*飛ぶ棒
*初恋監視センター
*漂流譚
*路爺退治
*旅風船
●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。

ストックホルムの鬼

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NEW『ストックホルムの鬼』

薄井ゆうじ・著

最高級ホテルのように完璧な住環境……だが間違いなく私は監禁されたのだ

 中学校の絵画部で一緒だった小西繁夫と、夕暮れの渋谷で偶然出会った。こいつはたしか死んだんじゃなかったのか。いや、記憶が交錯しているようだ。個展の招待状をもらったので何気なく足を運ぶと、屈強な男たちに取り囲まれ、拉致・監禁されてしまう。そして小西は私からあらゆるものを?奪した。退職、戸籍抹消、住居の撤退。そういうことを確かにやったと信じるには、この部屋の完璧さを見れば充分だった。彼は、あるいは彼らは、冗談や遊びなどではないのだろう。私はこの空間から出られるのか、元の社会に復帰できるのだろうか……。
 どこか見知らぬ地下空間へ連れ去られ、自分を見失った男による再生の物語。長篇小説。

●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。

哀しき玩具

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NEW『哀しき玩具』

薄井ゆうじ・著

玩具に秘められた、幼い頃の苦く悲しい思い出

 父が消えた理由について、信次はすこしずつ周囲の噂を知るようになった。正確に言えば父は消えたのではなく「死んだ」のだが、信次はそういう言葉を遣いたくなった。「警察では、わからなかったそうだ」村の誰かがそんな話をした。何かが父を奪ったのだとわかる年齢になってきた。その何かが誰なのかというより、どうしてそんなことをしたのかを知りたかった。(「赤い竹蜻蛉」より)
 昭和の古いおもちゃを題材に、少年の成長を葛藤を描く。十篇のファンタジック・ロマンを収録した作品集。

*赤い竹蜻蛉
*蒼い喧嘩凧
*星空の缶蹴り
*淡い影絵
*白い日光写真
*燃え尽きた逆さ面
*ぱっちん
*永久影踏み
*だるまさんが転んだ
*遠い糸電話

●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。

枕時計の女

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NEW『枕時計の女』

薄井ゆうじ・著

まるで何かを暗示しているかのように、その枕時計は異常な速さで針を回していた

「……かまいません。どうぞ、お持ちになって行ってください」女は決心したようにそう言って、時計と岡崎を見くらべた。「大切にしていた時計なのですが、あなたになら。……似てるんです」「え? 誰が、誰にですか」口に出してから、無粋なことを言ったと、彼は悔やんだ。女はもう、壁の時計のところに立っている。時計の針は全速力でまわっていたが、女がそれを取り上げると、その回転がぴたりととまった。持ち上げたはずみで、ぜんまいが切れたか、歯車でもはずれたのだろう。(「枕時計の女」より)
 記憶の時空を越え、出会った男女の淡き交わりを紡ぐ十二の短篇小説を収録。

*枕時計の女
*鳥を捜す女
*卒業しなかった女
*蜩になった女
*カモシカを追う女
*糸桜の女
*黒百合を食べた女
*浜茶屋に来た女
*露天風呂にいた女
*喫煙室の女
*飛翔する女
*地下鉄の女

●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。

12の星の物語

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NEW『12の星の物語』

薄井ゆうじ・著

宇宙の果ての、どこにもない世界の誰でもない人たちの奇妙な物語

 子供たちは広場に集まっていつも星間ロケットをつくっている。その最新式のロケットが今日、完成したらしい。「乗る順番を決めようとしただけじゃないか」アルマジロの次郎吉は口先をとがらせている。その言葉にアキラはいっそう腹を立てて、空中でハサミをかちかちと鳴らした。「決め方が問題なんだよ」「だから、じゃんけんで……」「こいつう!」争いの原因がだいたいわかった。つまりアキラは蟹だからハサミしか出せない。じゃんけんなんかしたら負けるに決まっている。(「蟹座じゃんけん」より)
 十二種の星座をテーマにした摩訶不思議なストーリー。短篇小説集。

第一話 山羊座通信
第二話 水瓶座日記
第三話 魚座システム
第四話 牡羊座新聞
第五話 牡牛座特急
第六話 双子座ファンクラブ
第七話 蟹座じゃんけん
第八話 獅子座レース
第九話 乙女座伝言板
第十話 天秤座からくり
第十一話 蠍座カレンダー
第十二話 射手座大戦争

●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。

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